修論タイトル: OSの管理者権限機構の改良によるユーザ環境移行手法の検討と実装

氏名:吉原大夢

概要:

近年スマートフォンの普及によって個人が持ち運ぶ情報の量が増加している。スマートフォンは従来の携帯電話に比べてコンピュータに近く、処理できる情報の量が増加したためである。それに伴って、従来の端末では存在しなかった無線LAN等の設定やシステム設定、アプリ、履歴等、各々が端末を扱いやすくするための環境とも呼ぶべきものがスマートフォンには存在するようになった。これらは端末利用者自身が端末を利用する中で時間をかけて構築していく物であると考えられる。
他方でスマートフォンは、ハードウェアの進歩やOSのバージョンアップ等の事情により、利用の条件が満たせなくなり、数年の内に端末を買い替えることが通常である。新しい端末に買い替えたときには、今まで使いながら長い時間をかけて構築した環境を新しい端末に再構築しなければならない。この環境の再構築という作業は、端末利用者にとって非常に手間であり、負担であると考えられる。
この問題を解決することができる既存のツールとしてバックアップツールがあげられる。 %Androidの公式アプリマーケットであるGooglePlayでも、様々なバックアップアプリが配信されている。 しかし、通常のAndroidOSの搭載された端末では他のアプリやシステムのデータへのアクセス権がないため、一般的には完全なバックアップが取れないという問題点がある。 また、Androidではroot化と呼ばれる端末の管理者権限を取得する方法があり、これを適用して対象端末の完全なバックアップを取るアプリも存在する。 他にも、パーソナルコンピュータと接続して端末の完全なバックアップを取れるツールやGoogleが提供する移行機能等も存在する。 しかし、それぞれが問題を抱えておりユーザの環境移行の手間を削減しているとは言いがたい。 %これらは、端末の管理者権限を利用することで端末内データの隅々にアクセスすることができるため、完全なバックアップが可能である。 %しかし、root化することによって端末の管理者権限を自由に利用できてしまい、端末のセキュリティを甘くする原因となる。そのため、root化を行うことは一般的な端末利用者に推奨できることではない。 %他にも、パーソナルコンピュータと接続して端末の完全なバックアップを取れるツールも存在するが、バックアップのための設定をパーソナルコンピュータにも行わなければならないためアプリでのバックアップに比べ手間がかかる。
そこで、本研究ではスマートフォンOSの1つであるAndroidの管理者 権限機構の改良を行うことにより、ユーザが利用している環境を簡易に移行できるツールの開発を行った。 管理者権限機構の改良では、実行したいコマンドを受け取り、管理者として実行するアプリを作成した。 提案手法では、suコマンドを本提案アプリからのみ実行できるように配置位置とアクセス権を変更した。 また、アプリ自身はAndroidのパーミッションで保護することによってデータ移行アプリ以外からの実行を制限した。 加えて、コマンド実行時には必ずsuコマンドのオプションを用いて、管理者権限を取得できる期間を1コマンドの実行中のみに限定した。 このようにすることによって、root化するよりも比較的安全に管理者権限を扱えるアプリを作成した。 データ移行は、必要な場合には管理者権限を利用し、端末内のデータを収集・再配置を行うアプリを作成した。 移行すべき情報が多岐に渡るため提案ツールを完成させるには至らなかったが、代表的な情報に対して移行実験を行い、理論的には本手法を利用することでユーザ環境の移行を実現できることを示した。

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