末田欣子客員准教授
現在、私たちが利用できる情報ネットワークはFTTH(Fiber To The Home)や無線LANなどのネットワークインフラが普及しており、いつでもどこでも高速なブロードバンドネットワークにアクセスすることが可能となってきています。また、携帯電話やインターネットは、私たちの生活になくてはならないものになりました。サービスとしては、SNSやブログ、twitterのような緩やかなコミュニティ間での情報共有が流行しています。

情報ネットワークといっても、ホームネットワーク、インターネット、モバイルネットワークなどがあり、例えば、家でWebコンテンツを閲覧する場合、無線LANを利用するか、携帯でimodeを利用するか、固定回線を利用するか、という選択肢があります。ブラウザを利用する端末についてもノートPCなのか、携帯電話なのか、スマートフォンなのか、タブレットPC、ネットブック、TV、ゲーム機、デジタルフォトフレーム等、更に様々な選択肢があります。

情報ネットワークを利用するユーザを取り巻く様々な環境に基づき、ユーザにどれだけの付加価値を提供できるのか、ユーザ視点にたち、様々な情報ネットワークや端末の組み合わせ、様々な通信サービスの組み合わせ、様々なユーザの組み合わせを鑑みながら、ユーザに最適な環境を提供するためには、様々な課題があります。

Webサービスや、SIPなどのセッション制御の技術を用いて、ユーザが望む端末や情報を簡単に選択でき、管理できる基盤技術を確立することを目指します。また、提案技術に基づくシステムにより、実現されるサービスやビジネスを考慮しつつ、新たな付加価値を提案していきたいと思います。

将来、自分の作ったシステム、サービスが世の中の人に使ってもらうことで喜びやモチベーションを得たい人、明るく、積極的な実行力のある人を求めています。

情報ネットワークにおいて、ユーザに最適な環境を提供するための新たな通信サービスの創出を目的に、その実現方法を検討しています。具体的には、サービス実行の基盤となるプラットフォーム、サービスの効率的な開発手法、ユーザを取り巻く状況に応じた端末の接続制御方式、サービス提案手法等を研究しています。

サービス実行の基盤となるプラットフォームの実現方式の研究
情報ネットワーク上に分散配置されたプラットフォームで動作する様々なサービス機能のうち、どの機能を連携し、ユーザが所望のサービスを実現するのか、また、これらの機能をどのようにネットワーク上に配備することが効率よくサービスを実現できる方式なのか、などを研究します。

サービスの効率的な開発手法の研究
上記プラットフォームで動作する様々なサービス機能を利用し、サービスを実現するソフトウェアを効率的に作るための開発環境、コンポーネント手法を検討し、提案手法を実装し、その生産性、および実装システムのユーザビリティ評価や評価手法などを研究します。

ユーザを取り巻く状況に応じた端末制御方式、サービス提案手法の研究
情報ネットワークで取得できるユーザのコンテキストやプレゼンスを利用し、個人やコミュニティにあわせた端末制御方式やそのカスタマイズ手法を研究します。また、ユーザを取り巻く状況に応じたコンテキストアウェアネス、コンシェルジュ等に適用します。


鈴木駿介「ダイジェスト視聴可能なP2Pライブストリーミング」

近年コンテンツ配信サービスが人気になっている. 中でも P2P におけるライブストリーミングは従来のサーバ-クライア ント方式と比べ低コストであることや, 同時視聴の際の配信者 への負荷の集中を解決でき, その需要は高まっている.

しかし, 既存のライブストリーミングシステムでは放送に途 中参加したユーザはそれまでの配信内容を把握することができ ないといった問題や, ユーザ数が大規模でないと安定して配信 ができないといった問題がある.

そこで本研究では途中参加したユーザに対してダイジェスト視聴可 能なP2P ライブストリーミングシステムを提案する. さらに, ユーザ数が小規模でも, 生成されたダイジェストの複製を可能 にし安定した配信を可能にする.

中原祥吾「M2Mにおけるデバイスへの統一アクセス手法」

近年, 有線や無線ネットワークの進歩に伴いM2M(Machine-to-Machine)通信も普及している. M2M通信とは, 人間の手を介在せず, デバイス同士を通信させる仕組みやコンセプトのことである. M2M通信を用いることで機器の自動化制御やスマートハウス構築などといったM2Mアプリケーションを開発することが可能となる. 例えば, 自動車のブレーキが踏まれた位置を収集し, よく踏まれている場所では, 速度を自動で制限するシステムが研究されている. またこのシステムでは, 収集した情報を地図上で利用することにより, 急カーブの場所や見えにくい信号機などといった危険な場所を早期発見するサービスを提供することもできる. このように, M2Mアプリケーションは, M2M通信を行うことで発生したデータを用いることにより, 新しいサービスやビジネスに繋がっていく可能性があるため, 期待されている.

しかし, M2Mアプリケーションを構築するためには, 通信方式や制御方式が異なる様々なデバイスを使用することを考慮しなければならない. そのため, M2Mアプリケーション開発時には, デバイス毎に処理を作成する必要がある. したがってM2Mアプリケーションが肥大化し, 複雑となる要因となるため, 開発時のネックとなっている.

そこで本研究では, 通信方式や制御方式が異なる様々なデバイスに対して, 共通の方式でデバイスにアクセスするため手法を検討した. 提案手法では, ホームICT基盤などでデバイス管理のために利用されているOSGi(Open Services Gateway initiative)というフレームワーク上に REST(REpresentational State Transfer)を用いてデバイスにアクセスできる機構を実装した. RESTとは, Webサービスにアクセスする際に利用されているアーキテクチャである. RESTをデバイス操作に割り当てることにより, Webを操作する感覚で通信方式や制御方式が異なる様々なデバイスの操作が可能となる.

評価のために, 家庭エアコンを自動制御するサンプルM2Mアプリケーションを構築し, 本システムを介した場合と介しない場合とのM2Mアプリケーションのコード量を調査した. その結果, 本システムを介した場合, 必要となるコードは, REST処理だけで済み, 介しない場合と比較して大幅に削減できることを示した. 更に, 本システムを介した場合の通信ボトルネックを調査するために大量のリクエストを送信し, CPUとメモリ使用量を調査した. その結果, ホームICT基盤などで用いられているパフォーマンスの低いマシン上でも動作可能であることを示した.

西尾信吾「ブラウザを用いた複数ユーザ動画制御共有ツール」
近年では,インターネットの普及により画像や音声,動画,ドキュメントなどの様々なデジタルコンテンツを共有できるようになった.特に,動画の共有はYouTubeや,ニコニコ動画などの動画投稿サイトの台頭により,様々な人々と動画を共有することが一般的になった.しかし,これはリアルタイムに同じ動画を視聴するのではなく,単に違う時刻に同じ動画を見ているだけである.リアルタイムに同じ動画を見る形式として,USTREAMやニコニコ生放送などのライブ配信型の動画投稿サイトがあげられる.ライブ配信型の動画では,リアルタイムに同じ動画を見ることができる一方で,視聴している動画に対し,自由な時刻に動画の再生を開始することや,自由に再生停止や再生位置変更などの操作を行うことはできない.

デジタルコンテンツの共有をリアルタイムに行う研究やサービスが幾つか行われている.専用のソフトウェアのダウンロードやインストールを必要としているものや利用者の負担を削減した一般的なWebブラウザを利用したリアルタイムのデジタルコンテンツの共有システムが提案されている.

本稿では,一般的な Web ブラウザを利用して,遠隔利用者間でリアルタイムに動画を共有し,動画に対し全ての利用者が再生停止や再生位置の変更を可能にすることで,利用者のコミュニケーションを支援する動画制御共有システムの提案を行う.

本システムでは,JavaScriptを用いた実装により「リアルタイム操作の達成」,サーバ側での逐次処理による「複数の利用者による操作を可能にする」,一般的なWebブラウザのみによる実現で「利用者の負担を低減する」,利用者間で変更される度に動画の再生時刻を同期させることで「同期のずれを許容範囲に抑える」の4つ「」で示した要求条件を実現する設計と実装を行った.

そして,本システムの利用者が増加した際に,共有サーバで本システムがどの位のメモリ,CPU を利用するかの測定や,本システムがどの位の利用人数まで耐えうるかの負荷実験を行った.また,視聴部屋内の利用者の一人のネットワークに遅延を掛けた場合に,どれほど動画の再生共有に影響が出るのかの測定を行う遅延実験による利用者間の動画の同期のずれが大幅なネットワーク遅延がない限り,2秒以内に抑えられるということを幾つかの利用例に基づき示した.